焼津の小川港を母港とする「長兼丸(ちょうかねまる)」の船主、長谷川久志さんと息子の一孝さんは、日本で唯一の深海魚専門の漁師です。久志さんは、初代「焼津おさかな大使」であり、横浜中華街にある「ヨコハマおもしろ水族館」の名誉館長。漁業の傍ら市内のイベントだけではなく、TV 番組など多数のメディアで深海魚の魅力を伝えています。
― 深海魚専門の漁師は、日本で長谷川さん親子だけですか
サバやマグロなどの漁をやっていて、ときどき深海魚を捕るという漁師はいますが、深海魚だけというのは私たちだけです。他の漁師がやらないのは、漁場が限られるのと何より儲からないからですよ。
もとは家族・親類でサバ、それからカジキ、マグロのはえ縄をやっていました。ところが、やり手が減っていくと、設備投資もできません。そこで、現状の設備であまりお金をかけず少人数でできる、深海ザメを中心とした深海魚に舵を取りました。
― いまは、深海魚漁が注目されています
ようやくという感じです。深海魚をはじめたころは、市場に持っていっても見向きもされませんでした。珍しさから一度は買い手が付いても、つづきません。市場から「他に持っていった方が」と言われ、買い手を自ら探しました。本当にここまで来るまでに、苦労しましたね。
11年前に外国航路の運搬船の航海士をやっていた息子が戻ってきて、船酔いの薬を飲みながら頑張ってくれたのも大きい。そして、何よりもテレビです。全国区で私たちが取材され、放送されると、すごい反響でした。注目されると自治体も動きだし、深海魚が町おこしに使われたりしています。
いまでは、講演会、イベント出演などにも呼ばれるようになりました。
― 駿河湾の魅力について聞かせてください
この漁は、深いところならどこでもいいわけではありません。海流の流れが強いところでは仕掛けが安定せず、漁には不向きです。それが、駿河湾であれば潮の流れが緩く、深いところでの漁に向いています。それに、焼津港から15分も行けば、深さは500mにもなります。遠洋に行く必要はありません。
大井川、安倍川、富士川等からの栄養豊富な河川を持ち、多くの魚を集める宝庫です。魚種も豊富で1,000種が生息するとされ、サメだけでも60種ほどもいると言います。そして、深海に限って言えば競合がいないのが何よりの魅力。水深1,000mは、手つかずのマリンファームなのです。
― 長谷川さんの好きな静岡は、どんなところですか
焼津の和田浜から見る富士山が大好きですね。左に日本平、中央に富士山、右に伊豆の連山が映る景色は、本当に見事です。漁をしているときには、富士山のカタチでだいたいの場所がわかります。
食べ物もおいしい。焼津のマグロ、カツオ、由比、大井川の桜えび、それに深海魚が加わる時代がきっと来ると思います。ヌタウナギのから揚げなど、手をかければ本当においしい。地元で獲れた魚と同様、地元でつくったビールが届くというのも、静岡県、特に焼津にとってはとても贅沢なことですよ。