熊本城復興応援缶

伝統工法と制振構造でさらに強く、しなやかな熊本城を目指しています。経済観光局 熊本城総合事務所 技術参事 復旧工事における建築担当 田代 純一さん

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現在、熊本城の復旧工事はどのような状況ですか?

今年度策定予定である、熊本城復旧基本計画に記載の20年間という視点で見ると、熊本城の復旧はまだ始まったばかりという状況です。石垣や重要文化財建造物については、復旧するために一度解体・回収し、石材や部材の破損状況を調査しています。
唯一復旧工事を行っているのは天守閣です。天守閣は復旧基本計画でも復興のシンボルとして最優先に復旧工事を行っています。

昨年の4月から本格的にスタートした天守閣の工事ですが、大天守においては、外観の復旧が進んできており、屋根の瓦を葺いたり、外壁の修復を行ったりしています。

熊本地震は余震が多いと言われていますが、復旧工事では耐震性の観点から以前より頑丈な補強を行うのでしょうか?

熊本城の復旧工事は、当然、今後の安全対策を念頭に計画しています。
一方で、鶴嶋さんの話にもあった通り、熊本城は特別史跡でもあるため、文化財としての価値を損なわないように、できるだけ当時の手法を用いて復旧する必要もあります。

従って、工事にあたっては城全体を一律の補強方針で臨むのではなく、場所ごとに個別に検討する必要があります。

また、補強といっても、一筋縄ではいかない部分があります。
たとえば天守閣は昭和35年に建築された際、地中に杭を打っています。今回補強を行うといっても杭まで補強することはできません。そのため、建物だけを強くする補強を行ってしまうと、補強されていない杭や地盤の方に地震のエネルギーが伝わってしまうということにもなります。
したがって、今回天守閣では「制振」という考えを取り入れ、強くしながらも部分的に力を吸収して、杭や地盤を含め、全体的にバランスよく耐震性を向上させる方法で補強する計画としています。

このほかに復旧工事で田代さんが大切にしていることはありますか?

復旧の過程をできるだけ皆さんに公開していくことです。来られた方々からのご要望もありますし、段階を踏んで次第に熊本城が本来の姿に戻っていく最中の姿も貴重だと考えるようになったこともきっかけの一つです。完成してしまえばそれ以降はその姿のままになるわけですから、その時々に違う姿を見られるのは、復旧工事中ならではだと思います。

ただ公開することによって工事が滞ってしまっては復旧が遅れてしまいますので、工事の状況を含めて熊本城を見ることができる見学通路の設置が基本計画の中に記載されています。長期間の復旧工事ですので、安全対策が取れる範囲に限定されはしますが、皆さんが入れるエリアはできるだけ確保していくことができればと思っています。
また、FacebookページやTwitter・インスタグラムなどのSNSでは、立ち入りのできない箇所の復旧工事の様子も随時写真で公開しています。

SNSでは大天守6階の瓦葺きの作業の画像なども公開されていて、外からは想像できない作業の進行に、びっくりしました。
このほかに、復旧工事を担当してみて新たに発見されたことなどはありますか?

私が担当している天守閣は、昭和35年に建築された状態を目指して復旧しているのですが、調査するうちに、当時の天守閣の建設に携わった方々が相当な研究を重ねていたことを改めて感じました。
当時より現在の方が技術力は進化していると思うのですが、今あの天守を同じように作る事ができるのだろうか、と思うような箇所もありました。

このほかに、損壊したことで表面化した箇所から、過去の資料にも記されていないような新発見に出会うこともあります。

最後に、ひとこと。

今年は、夏頃に大天守の6階が外から見えるようになり、その後も少しずつ見える範囲が広がっていきます。一方で、飯田丸五階櫓は現在解体が進んでおり、建物がなくなり石垣だけの状態になります。このように、今しか見られない、変わりゆく熊本城の姿をぜひ皆さんに直接ご覧いただきたいと思っています。