東京国立博物館で開かれた「ブランド・エクスペリエンス・ナイト」、「第51回<ル・テタンジェ>国際料理賞コンクール・ジャポン」、テタンジェが公式シャンパーニュとして振舞われた「第30回東京国際映画祭」。2017年下期には、アートや食とシャンパーニュをマリアージュさせるさまざまなイベントが開催された。
サッポロビールは、こうした取り組みを通じて何を伝えようとしているのか。テタンジェのブランディングに携わるサッポロビールワイン事業部輸入グループの北河智幸、遠藤のぞみ、ブランド戦略部宣伝室の福吉敬、ブランド・エクスペリエンス・ナイトのプロデューサーであるDFY inc.の小張正暁氏に聞いた。
――サッポロビールが、テタンジェの世界観として伝えようとしていることは?
北河智幸:テタンジェは、1734年創業の仏・フルノー社を前身とし、1932年にテタンジェ家の初代当主、ピエール・テタンジェ氏によって創業されました。日本でも30年以上販売されている、歴史のあるブランドです。とくにガストロノミーのシャンパーニュとして知られ、著名なレストランやハイエンドなホテルでは、なくてはならないブランドとして浸透しています。
サッポロビールがテタンジェのディストリビューターになったのは、2年前。テタンジェには、伝統を重んじるだけでなく、常に新しいことに挑戦する革新的な面もあります。そういった側面にも光を当てていきたいという思いを持って、PRに取り組んできました。
遠藤のぞみ:これまで、日本であまり知られていなかった側面というのは、ひと言でいえば「文化」との結びつきです。テタンジェは料理にとどまらず、絵画や音楽、建築などさまざまなアートに協賛し、イベントをスポンサードしたり、アーティストとのコラボレーションを行ったりしてきました。そういった活動は単なるPRのためではなく、テタンジェ家の価値観につながるものです。
北河:たとえば、ノーベル賞の晩餐会ではテタンジェが3年連続でサーブされています。パリのオペラ座や、スイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルでも提供され、モントルー・ジャズ・フェスティバル50周年の記念ボトルや、世界各国の画家や写真家の作品をあしらったアートボトルも制作しています。
こうした活動の背景にあるテタンジェ家の思いを知っていただけると、これまでテタンジェの味に惚れ込んでいらっしゃったシャンパーニュ好きの方にも、まだテタンジェを知らない方にも、よりこのシャンパーニュの奥深さが伝わるのではないかと考えました。
遠藤:ただ、どうすれば、その奥深さを皆さんに感じてもらえるのか。いろいろとアイデアを出し合いましたが、なかなか簡単には決まりませんでした。いくつかの試行錯誤を経て、宣伝室の福吉経由でイベントプロデューサーの小張正暁さんに相談し、形になったのが東京国立博物館(以下、トーハク)での「ブランド・エクスペリエンス・ナイト」です。
――アーティストが、フランスのテタンジェ社を訪れた体験をもとに表現する。このようなイベントに至った経緯は?
福吉敬:2017年初頭に話し始めて、トーハクというイベントの舞台は決まりました。収蔵されている数千年前の仏像や黒門のような文化遺産とモダンな建築が調和していて、日本でテタンジェの伝統と革新性を表すのに相応しい場所だとみんなが納得した。ただ、その場所を使って何をやるかについては、逡巡しました。
単にシャンパーニュを飲んで楽しむイベントであれば、どんなブランドにもできます。どうすれば、来ていただく皆さんにテタンジェらしさを体験し、持ち帰っていただけるのか。それを、古くからお付き合いがあり、昨年末からテタンジェのPRイベントにもご協力いただいている小張さんに相談したんです。
小張正暁:お話しをいただいたときにまず提案したのは、何をやるにせよ、イベントでパフォーマンスするアーティスト本人が現地へ行って、テタンジェの生まれる風土や文化を体感してくること。それがより大きなストーリーをつくるうえで生きてくるし、ひとつひとつの体験がイベントの表現にも反映されるだろうと思いました。
福吉:そのアイデアを聞いたときに、「なるほど」と。その後、アーティストとして沖野修也さんの名前が挙がったときにも、とてもしっくりきたんですよね。ジャズという音楽で世界を飛び回っていて、DJとしては珍しく、文筆家でもある。テタンジェの世界観を吸収し、表現していただける方として、適役だと思えました。
小張:沖野さんに加えてもうひとつ視点が欲しかったのと、音楽以外のアートを加えたかったので、神田さおりさんにもお声がけしました。彼女は過去にもトーハクでライブペインティングを行った実績があり、テタンジェの世界観を表す絵師としてもパフォーマーとしても遜色がない。それに、彼女になら、現地を訪れたときにテタンジェのことを好きになってもらえそうだと思ったからです。
北河:トーハクでのイベント翌日には、国際料理賞コンクールが控えていました。このコンクールは51回の歴史を持ち、テタンジェのガストロノミーを体現する伝統行事です。それと前後して新しいタイプのイベントを行えたことには、大きな意味がありました。
沖野さんも神田さんも、テタンジェ家の現当主であるピエール=エマニュエル・テタンジェとフランスで会っています。トーハクでは、来日していたピエール氏がひょっこりと顔を出して挨拶をしてくれて、2人と再会できた。こればかりは私にとってもコントロール外の出来事。すべてがうまく噛み合って、よいイベントになったなと思います。
――シャンパーニュ地方で生まれたテタンジェが、世界各国のアートや文化と結びつき、愛されています。これから先、日本ではどんなふうに味われていくでしょう。
遠藤:2017年はトーハクでのイベントや、東京国際映画祭の中日に歌舞伎座でテタンジェを飲んでいただくイベントを行いました。これからも、テタンジェの世界観を「和」の世界に寄せて解釈するような提案は行っていきたいと思います。
一方で、シャンパーニュをもっと身近に感じていただきたいという思いがあります。好きな方は日頃から飲んでいらっしゃいますが、ほかのアルコールと比べて入りにくいと感じている方もまだまだ多い。30代、40代の女性を中心に、ちょっとしたハレの日には飲んでみようと思っていただけるような、選択肢のひとつになればいいなと思います。
北河:今はテタンジェと一括りにして皆さんにお伝えしていますが、テタンジェにもブリュット レゼルヴ、ノクターン、コント・ド・シャンパーニュなどさまざまなラインナップがあります。それに、日本ではシャンパーニュといえば白のイメージがありますが、フランスではロゼも人気があるんですよね。
私がこれからもっと頑張らないといけないのは、それぞれの特性や世界観の違いをうまくお伝えすること。とくに、コントが唯一無二のシャンパーニュだということはぜひ知っていただきたいです。テタンジェの特徴としてシャルドネが持つエレガントさが挙げられますが、その究極が、シャルドネ100%のコントですから。
小張:僕はシャンパーニュのことをほとんど知らずにこのプロジェクトにかかわらせていただいて、本を買って勉強するところからのスタートでした。それでも、現地でコントを飲むと、話には聞いていたけれどこれほど違うのかと驚きました。日本に帰ってからほかのスパークリングワインを飲んでも、明らかに違いがわかります。
福吉:本物を体験して初めてわかる価値がありますよね。だから、イベントをやっていくことが大事なのだと思います。よい空間で、よいアートとともに、最上のシャンパーニュを味わう。その時間をひとりでも多くの方に体験していただき、こんなに美味しかったんだと知ってもらうことで、また飲みたいと思っていただける。
それに、シャンパーニュはウェルカムドリンクだということも、イベントを通して広めていきたいです。最初に口にすることで、次は何が来るんだろうとワクワクする。そういう体験を重ねると、また世界が広がっていくと思います。
宇野浩志=取材・文
後藤 渉=撮影
最初にフレッシュで洗練された果実味があり、熟した果実の香りが続きます。口に含むと滑らかで生き生きとしており、グレープフルーツとかすかなスパイスの風味がする洗練された味わいが特長です。