フランス・シャンパーニュ地方の老舗シャンパーニュ・メゾン「テタンジェ」。
そのブランド・エクスペリエンス・ナイトが、9月4日、東京国立博物館の法隆寺宝物館で開催された。
シャンパーニュを味わうのではなく、体験する。
そう銘打った背景には、13世紀にシャンパーニュ伯爵・ティボー4世が持ち帰った白ぶどうに始まる歴史と伝統、
そして、初代ピエール・テタンジェ氏から4代にわたって親族経営を続ける、テタンジェ家のガストロノミーがある。
考察というと小難しい印象を受けるが、それを理屈ではなく、体感しうるものとして表現したのが、このパーティで披露された、DJ・沖野修也による音楽と、踊絵師・神田さおりによるライブペインティングだ。
沖野と神田は、このイベントに先立って、ランスにあるテタンジェ社を訪れている。北フランスの日差しと気候を肌で感じながら、同社が所有する288ヘクタールものぶどう畑を歩いた。昨年ユネスコの世界遺産に登録された地下蔵を訪問し、歴史の重みを体感した。ここは、13世紀にサン・ニケーズ修道院が建造され、フランス革命によって修道院が破壊されたのち、修道士たちがシャンパンの貯蔵庫として使用するようになった地下洞である。
こうしたシャンパーニュを育む自然や文化を感じ取り、テタンジェ家の現当主、ピエール=エマニュエル・テタンジェ氏より、テタンジェ家の歴史と、シャンパーニュにかける想いを伝えられた。ぶどう栽培やシャンパーニュづくりだけではない。テタンジェ家が代々尊重してきたのは、料理や音楽、建築、絵画など、アートを含めたマリアージュであり、総体として生み出される食文化だ。
テタンジェ家の姿勢を示す取り組みとして、シャンパーニュ・テタンジェの創始者、故・ピエール・テタンジェ氏の意志により創設された国際料理賞コンクールがある。
料理のプロフェッショナルによって組織され、フランス料理の伝統的な技術と創造性が結びついた確かな料理を認定し、名誉を与える。1966年に誕生したこのコンクールは、ガストロノミーの最高峰と呼ばれるほどに信頼を得てきた。
フランス本国で行われる本選の前には、世界各国でナショナルコンクールが開かれる。1984年に初めて開催された日本大会で優勝し、パリの本選に出場して日本人初の優勝を勝ち取ったのが、現在、ル・テタンジェ国際料理賞コンクール・ジャポンの審査委員長を務める堀田大氏。テタンジェの思想をもっとも深く知る日本人のひとりである。
「初代ピエール・テタンジェの思い出と、偉大なるフランス料理のビジョンを永久に留めることを目的として、彼の息子であるクロード・テタンジェが、メートル・キュイジニエ・ド・フランスに委託してコンクールを立ち上げました。プロフェッショナルであるコンクール委員会に任せ、審査を担うシェフたちが、自らの哲学に基づいて公正に料理を評価し、研鑽をうながす。コンクールの目的は、あくまでフランス料理の向上です」(マンジュトゥー代表取締役・堀田大氏)
先日開かれた日本大会の審査員には、日本を代表するホテルやレストランで厨房を担うシェフたちが並ぶ。彼らはそれぞれに、料理人としての哲学を持ち、料理とサービスを提供している。出場者の名前や所属は、コンクールが終わるまで審査員にも知らされない。11人の審査員は、純粋に料理だけを見て、味わい、それぞれの価値観に基づいて評価するのだ。
「伝統的だから善いとは限らないし、新しいものが善いわけでもない。課題として出されるメイン料理に加えて、ソース、付け合わせ。それらの素材や調理法が、一皿のハーモニーを生むために、必然的に使われているかどうかを見る。そのうえで、古い新しいにかかわらず、価値があるものを認めようというのが、テタンジェの考え方です。料理にしても、ほかのアートにしても、それが突飛なだけで意味のないものであれば、テタンジェ家と審査員は認めないでしょう」(堀田氏)
DJ・沖野修也は、テタンジェ社のあるランスで数日を過ごしたのち、パリのレコードショップに立ち寄り、東京国立博物館のブランド・エクスペリエンス・ナイトでかけるレコードをセレクトした。
「音楽、建築、料理……そういったアートとのマリアージュを大切にされているメゾンなので、文化としてのシャンパーニュということを念頭に置き、過去から現在への歴史が、時間を超えて受け継がれるイメージを選曲のテーマにしました」(沖野修也氏)
その音楽にあわせて、神田さおりが舞い踊りながらキャンバスに絵を浮かび上がらせていく。霧雨のなか、踊りの軌跡を定着させていくようなライブペインティングによって現れたのは、躍動する蔓に実った、ぶどうの房。
「豊かに育つシャルドネの畑を体験し、こんなに大切に育ててもらったぶどうたちが、これほど丁寧な工程を経て、美しいシャンパーニュになるんだ、と感動しました。どんな気持ちで、誰と味わうのか。その時間をすべてマリアージュすることがシャンパーニュの楽しみ方だと感じたので、それを表せたらいいなと思って描かせていただきました」(神田さおり氏)
シャンパーニュが生まれるまでには、さまざまな物語や歴史がある。それを、どのような場所で、どんなアートに触れながら、誰と楽しむか。そういったシチュエーションやアートも含めたマリアージュが、シャンパーニュを体験するということ。体験は、人から人へとシェアされていく。
「太陽の恵みであるシャンパーニュが象徴する、幸福や文化。それを日本の方々と共有できることを幸せに思います。シャンパーニュというのは、プレリュード(序曲)です。飲んだあとに愛が来ないと、プレリュードにならない。シャンパーニュと、それを取り巻く芸術や料理。それらのマリアージュを味わったあとには、どうぞ素晴らしい愛を育んでください」(ピエール=エマニュエル・テタンジェ氏)
一杯のシャンパーニュに、テタンジェが込めた想いである。
宇野浩志=取材・文
後藤 渉=撮影
今なお家族経営を守り通す希少なシャンパーニュメゾン「テタンジェ」。
2017年9月に実施されたブランドエクスペリエンスのメインアクトを務めた
DJ沖野修也氏、踊絵師・神田さおり氏両名によるメゾン訪問。
このムービーを通して、お二人が感じた空気をメゾンが掲げる「伝統と革新」を追体験してください。
最初にフレッシュで洗練された果実味があり、熟した果実の香りが続きます。口に含むと滑らかで生き生きとしており、グレープフルーツとかすかなスパイスの風味がする洗練された味わいが特長です。