ニュースリリース

ビールに冷涼感を与えるホップの香り成分に関する研究が日本味と匂学会第56回大会で「優秀発表賞」を受賞

ビールの味わいの多様性につながる取り組みを発表

サッポロビール(株)は、2022年8月22~24日の会期で開催された日本味と匂学会(注1)第56回大会(会場:仙台国際センター)でポスター発表した「ホップに由来する冷涼感寄与成分の探索:3成分の相互作用による新たな冷涼感形成メカニズムの発見」で「優秀発表賞」(注2)を受賞しました。

近年、クラフトビールのブームに代表される多様なビールが求められる時代において、世界中で様々な香りのホップが育種、開発されており、その中にはミントのような冷涼感をビールに与えることができる品種もあります。当社はこの発表で、このようなホップがメントール(注3)などの既知の冷涼感成分をほとんど含まないにもかかわらず、ビールに冷涼感を与えることができる仕組みを解明するとともに、このようなホップで醸造したビールにおいて、ホップの香り成分が、単独ではなく3つの成分の相互作用によって冷涼感に寄与していることを明らかにしました。複数の成分が組み合わさることで冷涼感が強まる、という新たな冷涼感形成メカニズムの発見は今までに類がなく、また同学会においてビール醸造技術をテーマとした発表の受賞は初めてであり、この受賞はビールの味わいの多様性につながる取り組みが評価されたものと考えています。 当社では今回の研究成果をもとに、冷涼感をさらに高める醸造技術や、冷涼感を活かした味わいを生み出す商品への研究開発を通じて、多様なビールの楽しみ方を提案していきます。
(注1) 「日本味と匂学会」は、1967年に始まった「味と匂のシンポジウム」を前身として、1991年に学会として設立された。味と匂に関する科学の広汎な研究の進展を図ることを目的として、国内の大学・研究所・企業・病院などに所属する多くの味覚・嗅覚研究者によって構成・運営されている。日本味と匂学会ホームページ:http://jasts.com/
(注2) 「優秀発表賞」は日本味と匂学会の年次大会でポスター発表された一般演題から内容の優れたものに授与される賞。
(注3)ミントの冷涼感のもととなっている成分。

受賞テーマ
「ホップに由来する冷涼感寄与成分の探索:3成分の相互作用による新たな冷涼感形成メカニズムの発見」

<研究概要>
近年育種、開発されたホップの中には、他のホップにはないミント様の香味を有するとされるものがあります。実際にそのようなホップ品種を香り付けに用いて試験醸造を行なうと、その試験ビールでは、口元や喉の奥ですっとする冷涼感が確かに感じられました。当社ではこの冷涼感に着目し、そのようなホップ品種を使用したビールテイスト飲料の冷涼感に寄与する成分について、匂いかぎGC(GC-O)(注4)を用いて探索したところ、成分A、成分B、成分Cの3つの香り成分が試験ビールに多く含まれることを見出しました。図1は、対照となる一般的なホップと、試験として冷涼感のあるホップで香り付けしたビールテイスト飲料を試作し、その香りの特長を官能検査で比較したグラフです。試験の方が口元で感じられる冷涼感、喉の奥で感じられる冷涼感がいずれも強いことがわかります。この対照のサンプルに、成分A、成分B、成分Cを匂いかぎGC(GC-O)で分析したビール中の量を再現できるように添加し、比較しました。その結果、口元で感じられる冷涼感、喉の奥で感じられる冷涼感とも、3成分の添加で、試験に近づくことが確認できました。次に、対照のサンプルに添加する成分の組み合わせを変えて、これらの成分の効果を官能検査で細かく確認(表1)を行った結果、組み合わせるのが2成分の場合には、組み合わせ次第で冷涼感への効果の強さが異なり、3成分全てがある時に、冷涼感が最も強くなることがわかりました。

また、品種の異なるホップサンプルでこれらの成分の組成を調査した結果、成分A と成分Bの含有量が高いホップ、成分Bと成分Cの含有量が高いホップ、成分Cだけの含有量が高いホップなど、さまざまな組み合わせがありますが、成分A,B,Cの3種の含有量のすべてが際立って高いというホップは、調査した19サンプルの中にはありませんでした。このことは、冷涼感のある品種単独よりも、この3成分に着目して品種を複数組み合わせてブレンドすることで、更なる冷涼感に寄与する可能性があることを示唆する結果となりました。
(注4)匂いかぎGCGas Chromatography-OlfactometryGC-O)):香り成分を分析するGC分析のうち、機械的な検出器と並行して、分析で分離された香り成分を人間が嗅いで成分の香りの質や強度を判定する手法。
(注5)各サンプルの官能評価で得られた「冷涼感(口元)」「冷涼感(喉の奥)」の全パネリストによる平均値を、どの成分も添加していない対照の平均値と比較し、「対応のあるt検定」と呼ばれる統計手法で検定して有意差を確認した。  △:平均値は高いが有意差はなし。○:危険率5%で有意差あり。◎:危険率1%で有意差あり。

今回の結果は、ホップの使い方でビールに多様性のある味わいを与える新たな技術につながる可能性を持っており、当社は引き続き、多様な商品開発を通じて、様々なお客様のニーズに対応していきます。

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