いっこうに衰える気配のない“肉ブーム”。赤身肉のヘルシー性といった新しい商品価値も加わり、メニュー、業態ともにかつてない広がりを見せている。そうしたなかで、商品としての潜在力の高さがあらためて見直されているのがステーキだ。肉のおいしさをストレートに表現できる調理法であることに加え、そのライブ感やエンタテインメント性が“外食ならでは”の価値として高く評価されるようになってきた。高度化する消費者ニーズに対応するステーキの商品開発、提供法の最前線を紹介しよう。
2018年7月に大阪・北新地にオープンした「D Steak」は、大阪を本拠にイタリア料理の名声店「ポンテベッキオ」などを展開するポンテベッキオグループが出店したステーキ専門店。黒毛和牛の赤身肉ステーキが看板商品で、150~450gの5サイズを2500円~のお値打ち価格で提供している。注目したいのは商品力を磨き込むための装置の活用法。肉の旨みを深める紫外線放射冷蔵庫、塊肉の繊維を細かく断ち切る特殊カッターなどで、これらはすべて同社が独自に開発したものだ。さらに肉の焼成にも独自開発した自動回転式の炭火焼き機「Dジラロースター」を使用。輻射熱の効果を最大にした炭床の形状と、肉を回転させて均一に加熱できるようにしたことがポイントだ。肉のカット時に出る端材を煮込みに活用するなどメニューづくりも巧み。客単価は昼3500円、夜6000円を確保し、26坪24席で月商1100万円を売り上げている。
大阪府大阪市北区西天満2-10-2 幸田ビル1F ℡06-6311-8080
営業時間/11時30分~14時30分、18時~23時 無休
店舗規模/26坪24席
ステーキはブロック肉の状態で火入れを9割方済ませておき、注文ごとに切り分けて低温のスチームコンベクションオーブンで温め、仕上げに炭火で表面を焼く。このオペレーションにより提供時間は10分と早い。スピーディな調理オペレーションは結果としてサービスレベルの向上につながっている。
夜の客単価5500円のカジュアルイタリアン業態ながら、1日15㎏の塊肉を売るなどステーキを看板商品に据えて圧倒的な支持を得ているのが東京・芝大門の「Trattoria Cicci Fantastico」である。客単価は昼1100円、夜5500円。2フロア構造・60坪90席の規模で月商1350万円を売り上げる繁盛店だ。売れ筋のブラックアンガス牛Tボーンステーキは600g4500円、1㎏7800円の2ラインで展開。塊肉を調理する焼き台を1階フロアの客席から視認性が高い場所に置いて演出効果を高めている。2階客席には厨房がないため、2階に上がるお客の目に入る位置に焼き台や肉のショーケースを配置して“塊肉が売り”の店であることをアピール。看板商品のステーキは単品原価率50%前後を投じてお値打ちを訴求する一方、粗利益率の高い生パスタなどを導入し原価率を37%に抑えた。バルメニューの導入で2軒目利用を吸収している点も見逃せない。
東京都港区芝大門1-15-3 GEMS大門1・2F ℡03-6435-9355
営業時間/11時30分~14時30分、17時30分~23時30分(土曜・祝日~23時) 日曜定休
店舗規模/60坪90席
経営は㈱ダルマプロダクションで2016年3月オープン。調理作業を目の前で見られるカウンター席をはじめテーブル席、小上がりのソファ席などを用意し、多彩な利用動機に対応することで90席をフルに稼働させている。2階のメインフロアには36人の団体客までに対応できる対面テーブル席も配置。
埼玉・川越を拠点に焼肉店やホルモン焼き店、カフェなど9店を展開する㈱FARMが2018年8月にオープンした「小江戸の肉バル 蔵や」は、その名の通り肉料理をメインに据えて居酒屋ニーズを吸収するユニークな業態だ。なかでも売れ筋がステーキで、希少部位を使いながら単品990円~のお値打ち価格で提供する。ステーキは日替わりで8種前後を用意しており、看板商品の「本日のおすすめ 3種盛り」2999円は、ランプなど牛肉をメインに豚肉、鶏肉を1種類ずつ盛り合わせたもの。グループで黒毛和牛を一頭買いすることで、多彩な商品バラエティと低価格を実現した。フードメニューは他に、お肉の前菜8品、冷前菜10品など10カテゴリー65品を299~2999円で提供。またキャッシュレス決済サービスを導入しテーブル会計としており、個室を利用するグループ客などに好評だ。客単価は4500円、40坪80席で月商800万円を売り上げる。
埼玉県川越市新富町2-13-11 ℡049-222-2121
営業時間/17時~翌0時 無休
店舗規模/40坪80席
蔵をイメージした店舗は外観、内装ともに落ち着いた雰囲気で、4500円という客単価を確保することにもつながっている。アルコールの売上げ比率は40%。2018年8月からグループ全店でキャッシュレス決済サービスを導入しており、蔵やでのキャッシュレス決済比率は現在15%となっている。
ステーキは外食における“ご馳走”の代表格だが、ファストフード的な業態の台頭もあって低価格化が進んでいる。肉ブームで多彩な業態が登場した結果、かつてと比べて敷居の低い、いわば日常的な商品という性格を強めていることも確かだ。しかしその方向にばかり進めばビジネスのありようとして小売業に近づき、外食業としての強みを発揮できなくなる。やはりここでも、外食ならではのおいしさ、楽しさは不可欠だ。今回紹介した事例に共通しているのは、まさにこの点なのである。