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注目トレンド更新日:2019年1月23日

進化する「総合型居酒屋」のいま

品揃えの多さが豊かさだったのは遠い過去の話。ファミリーレストランやチェーン居酒屋に代表される、幅広いメニュージャンルを揃える業態が勢いを失ってから久しい。「何でもある店=売りものがない店」と捉えられ、高度化する消費者ニーズに対応できなくなったのがその要因。だから「総合メニュー型業態は時代遅れ」と言われていたのだが、その定説を覆す動きが出てきている。幅広いメニュージャンルや膨大な品数を揃えながら熱心な固定客を摑み、大ヒットを飛ばす事例が登場しているのだ。

品揃えと品質を高い次元で両立する

食道楽 上野店

 東京・上野の「食道楽」は35坪120席の規模で月商実に3500万円を売り上げる超繁盛居酒屋。ヒットの要因は品揃えと品質を高い次元で両立したメニュー構成にある。分厚いメニューブックと店内随所の短冊に掲げられたフードメニュー数は約200品。圧巻の品揃えに加え、メニューは一切の「手抜き」がない。たとえばカニはタラバガニとズワイガニを使ったメニューが全12品。素材のよさを生かした刺身や炭火焼き、洋食メニューや食事ものまで揃う。貝類は10種以上を使用し、大白ハマグリやあかにし貝など希少な産直素材が目白押しだ。さらに際立っているのが、居酒屋ではめずらしい肉メニューの充実ぶり。岩手佐助豚や函館産の大沼牛といったブランド食材を使い、カツやステーキ、ハンバーグなどに仕立てている。締めの食事ものにも抜かりはない。越前おろしそばや道楽うどんなど郷土色豊かな麺料理に加え、宮崎霧島鶏を使った親子丼や大沼牛牛トロ炙り丼など、ここでもきわめて専門性の高い品揃えを持つ。いわば「専門店の集合体」であり、このメニューコンセプトが客単価3000円を確保しつつ、休日は1日500人という圧倒的な集客力の源泉になっている。

東京都台東区上野6-12-12 ℡03-6803-2348
営業時間/24時間営業 無休
店舗規模/35坪120席

「恵比寿横丁」や「有楽町産直飲食街」などユニークな業態開発で知られる㈱浜倉的商店製作所が経営。24時間営業を行なっていることも特徴で、メニューは専門特化していながら利便性の高い業態であることも大ヒットの要因だ。熟練度の高い調理人を置き、仕込みから店内で行ない品質を高めている。

酒と銀シャリ せいす

 北海道・札幌に2017年6月にオープンした「酒と銀シャリ せいす」は、その名が示す通り飲み中心から食事利用までをカバーする総合型居酒屋。グランドメニューと日替りを合わせて211品という膨大なメニューラインアップを誇る。看板商品に据えているのが牡蠣を使った料理で、北海道産の生ガキ3種の食べ比べをはじめ、焼きガキやカキフライ、生ガキの上にウニとイクラを盛った「大特価 生ウニ&イクラ盛り」1ピース600円などユニークなアレンジメニューまで揃う。そして牡蠣と並ぶ柱が、北海道産の牛肉を店内で熟成させた自家熟成牛のステーキ。こうしたメインアイテムの脇を固める一品料理も充実しており「アテ」のカテゴリーで32品を揃える。さらに注目したいのが食事メニューだ。羽釜で炊くごはん13品をラインアップした「羽釜銀シャリ」がそれで、精米したてのコメを鉄製の釜で炊いて品質を追求。「ななつぼし」や「ふっくりんこ」など北海道産を中心にコメ6種を揃え、2合炊きか3合炊きを1000~2000円で提供する。このユニークなメニュー構成が受けて、単価は4300円を確保、30坪43席で月商1200万円を売り上げている。

北海道札幌市中央区南2条西6-5-3 住友狸小路プラザハウス  ℡011-215-0193
営業時間/15時~翌1時(日・祝日~23時) 火曜定休
店舗規模/30坪43席

メニューはグランド156品と日替り55品で構成。ちょい飲み、一次会利用、食事中心などさまざまな利用動機を想定し、全部で19のカテゴリーを設けている。ツーオーダーで剥くだけの生ガキをはじめ、切る、和える、盛るだけで提供できるメニューを81品揃えるなど作業性も重視。

皆様酒場 昭和ゴールデン 大阪駅前第4ビル店

 “東京の古きよき大衆酒場”を大阪で再現し大ヒットを飛ばしているのが大阪・梅田の「皆様酒場 昭和ゴールデン」だ。グランドメニュー119品と日替り10~12品という膨大なメニューを100~600円の価格レンジでラインアップ。看板メニューの「本気の煮込み」330円は、関西ではどて焼きとして味噌味で仕上げるのが一般的なところ、東京風のネーミングにしてソース味で提供。同様に「関東煮」100円~は関西風の透明なだしではなく濃口醤油を使った真っ黒な見た目で、これが関西のお客に強いインパクトを与えている。一方で、「魂のイカ焼きデラックス」350円や「ビフカツ」500円など関西で馴染み深い料理も手頃な価格で揃え、店名にある“昭和の大衆酒場”を品揃えで表現。JR大阪駅に直結するビルの地下1階という利便性の高い立地の強みもあり、幅広い客層を掴むことに成功した。32.4坪の店内には椅子席65席の他に15人収容の立ち飲みスペースを設置。11時30分~23時までの通し営業で客単価は1900円、平日昼にもシニア層や女性客を集客している点が注目される。

大阪府大阪市北区梅田1-11-4 大阪駅前第4ビルB1 ℡06-6454-9911
営業時間/11時30分~23時 日曜定休
店舗規模/32.4坪65席+立ち飲み15人収容

経営母体は兵庫県と大阪府を中心に居酒屋業態を展開する㈱Kaya Groupで、「昭和ゴールデン」は三宮店に続く2号店。三宮店は立ち飲みだが、ビル地下という立地で目的客が多いため椅子席を設置。これが客層の拡大につながった。昼飲み需要も吸収しアルコール売上げ比率は50%を確保する。

「なんでもあって、どれも旨い」を実現する

 総合型メニューの業態が勢いを失ったのは、単にメニュー数が多かったからではない。売りものがなく、一品一品の品質も低かったことが消費者から見放された要因だ。逆に、メニューそれぞれが高い品質を備えている限りは、品数は多いほうがお客にとって望ましい。今回紹介した事例は、そのことを如実に示しているといえよう。もちろん、それを実現するのは容易なことではない。「酒と銀シャリ せいす」のように、アテのカテゴリーで鮮度落ちの早い食材を有効活用するなど、ロスを抑える工夫も不可欠。「なんでもあって、どれも旨い」を実現するための地道な取り組みが、圧倒的な支持の背景にあるのだ。

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