「ドリンクをいかに売るか」。これが居酒屋のみならず、外食業界全体の大テーマになってきている。粗利益を確保することに加え、プラス1杯の需要を喚起することで客単価アップが見込めるなど、ドリンクをしっかり売ることによる経営面でのメリットは大きい。またフードメニューと比較して提供時の手間がかからないということも、昨今の人手不足の状況下では見逃せないポイントだ。今回は、ドリンクという商材の強みを十分に生かしている事例を取り上げ、その成功のポイントに迫ってみよう。
東京・渋谷の繁盛バルとして知られる「渋谷 DRAEMON」。2016年8月に道玄坂から渋谷駅前に移転したが、それを機にアルコールの品揃えを変更し、主力メニューをボトルワインから580円均一のサングリア100種に切り替えた。狙いはアルコール原価率を下げることだったが、きっかけは系列店で提供していたモヒート100種がお客から好評だったこと。そこでバリエーションをつけやすく原価が低いサングリアに目をつけた。ブックレット型のメニューの表紙をめくると見開きページに100種のサングリアがずらりと並ぶ。これだけではチョイスに迷うお客もいるとの考えから、「スペシャルサングリア」と銘打った5種をメニューブックの上部にイラストつきで大きく掲載。売上げ上位5品のうち3品がスペシャルサングリアで占められる。サングリアはワインをフルーツジュースで割った原液に生フルーツを漬け込んでつくり、カテゴリー原価率は15%。ドリンクのうちサングリアの売上げ構成比は40%を占め、アルコールドリンク全体の原価率も22%に収まっている。移転後も繁盛ぶりは変わらず、現在の客単価は3700円、30坪50席の規模で月商1600万円を売り上げている。
東京都渋谷区渋谷1-25-6 渋谷パークサイド共同ビルB1 ℡03-6427-1447
営業時間/17時~翌0時30分(金・土曜、祝前日は~翌1時、日曜、祝日は~翌0時) 無休
店舗規模/30坪50席
単品原価率150%を投じた「牛フィレとフォアグラのロッシーニ」1580円などのお値打ち料理を看板に据えた繁盛バル。フードメニューはタパスやパスタなど67品を70~1680円の価格レンジで提供している。アルコールの売上げ比率は移転前と移転後で変わらず40%を確保する。
ここにきて若い女性客などに客層の広がりを見せている日本酒。品揃えだけでなく売り方でも新たな試みが見られるなか、「飲み比べし放題」を打ち出して人気を集めているのが東京・十条の「サケラボトーキョー」である。客単価4300円でアルコールの売上げ比率は60%。14坪28席で月商400万円をコンスタントに売り上げている。飲み比べし放題は2時間30分の制限時間内で約30銘柄が注文できる「スタンダード」2700円と、「十四代」や「新政」といった希少銘柄を含む40銘柄が注文可能な「プレミアム」3348円の2コースを設定。注文は1銘柄1回までで、1杯のポーションは50mlとしている。日本酒はメニュー表から選ぶ他、スタッフにおすすめを聞いたり、保管庫をお客が直接見て選ぶなどさまざまな注文方法が可能だ。さらに同店では、これに「おまかせ料理」を組み合わせたコースも提案。飲み比べし放題のプレミアムにおまかせ料理8品を組み合わせた5500円のコースが売れ筋だ。また販促にも積極的に取り組み、来店客にボトルを持ってもらって撮影した写真を店のフェイスブックに毎日投稿。フォロワー数は1万人を超えており、顧客の輪を着実に広げている。
東京都北区十条仲原1-1-7 第3北成ビルB1 ℡03-5948-5027
営業時間/17時~翌0時 火曜定休
店舗規模/14坪28 席
経営母体は㈱ジャパンテイストで2015年7月にオープン。店内は白木を使ったハイチェアとハイテーブルを設置し、和のテイストとバルの気軽さを表現している。照明を明るくして入店しやすい雰囲気にしたことも奏功。当初の狙い通り、若い女性客など「日本酒ビギナー」の集客に成功した。
㈱CANVASが愛知県内に7店を展開する「メリケン」は、トレンドを柔軟に取り入れた間口の広いバル。2014年3月にオープンした岡崎店は、客単価2900円、40坪80席で月商900万円を売り上げている。地方都市という立地がら、フードメニューは幅広い客層と利用動機を取り込めるラインアップとしているが、それはドリンクメニューも同様。とくに注目したいのが、お酒を飲まないお客の集客を狙ったソフトドリンクの充実した品揃えだ。340~500円の価格レンジで20品を用意しており、看板商品は「自家製レモネードスカッシュ」と「自家製レモネード」(各500円)。フードメニューの看板であるロティサリーチキンや生ハムに合わせて考案したもので、自家製というキーワードがお客をひきつけるポイントだ。他にも、高知県の岡林農園から仕入れる柑橘シロップでつくるドリンクも好評。こうした高付加価値型のソフトドリンクを多数揃えたことが客単価アップにも貢献した。現在、ドリンクの売上げ比率は40%で、そのうち30%をソフトドリンクが占める。ドリンク全体の原価率が23%であるのに対して、ソフトドリンクは18%に抑えられており、利益貢献度はきわめて高い。
愛知県岡崎市明大寺本町4-42-1 ℡0564-64-0529
営業時間/17時~翌0時(金・土曜、祝前日~翌1時) 不定休
店舗規模/40坪80席
ロティサリーチキン、ピザ、生ハムをフードの3本柱に据えたバル。経営母体の㈱CANVASが愛知県内に直営6店、フランチャイズ1店を展開しており、岡崎店は2号店。名鉄の東岡崎駅前に立地するが、想定以上にお酒を飲まないお客が多く、その点でソフトドリンクが有効に機能している。
冒頭に述べたように、ドリンクはいまや経営の中身を左右する重要な商材になっている。これまではフードメニューと比べて「手を抜きがち」なところがあったが、そうした姿勢では現在の競争を勝ち抜くことはできない。なぜなら、ドリンクの品揃えや売り方が、店の個性をも決定づけるようになっているからだ。それこそが、今回紹介した事例に共通する部分。フードとドリンクは主従の関係ではなく、ともに店の主役であると位置づけることこそ、これからドリンクの商品開発において求められる姿勢といえるだろう。