居酒屋メニューの定番中の定番である「串焼き」に、見逃せないニュートレンドが台頭している。さまざまな野菜を肉で巻いて焼き上げた「野菜肉巻き串」がそれだ。ヘルシー志向に対応した野菜料理のバリエーションとして注目されているが、それだけではない。これまで串焼きは男性客、それも年配のお客からの支持が中心だったが、若い女性客など新しい客層へと串焼き人気が波及しているのだ。アイデア次第で豊富な品揃えが実現でき、店の個性も打ち出せる野菜肉巻き串。そのポテンシャルを探ってみよう。
東京・浅草の裏通りに2017年9月にオープンした「博多串焼き ハレノイチ」は、㈱ベイシックスで「ジョウモン」六本木店の店長などを務めた板木駿一氏が独立開業した店。10.8坪26席の規模で、月商300万円を売り上げる人気ぶりを見せている。板木氏が「初めて出会った時は味と見た目の両方に衝撃を受けた」と語る博多スタイルの串焼きをベースに、豚、牛、鳥の各種肉を使った串焼きの他、豚バラ肉で野菜を巻いた串焼きを多数ラインアップする。通常の焼とりや焼とんと違って季節性を表現しやすいというメリットを生かし、春菊や菜の花といった旬の野菜の串も提供。専門店としてのこだわりを打ち出すため、焼成には炭火を使い、豚肉はカリッと、中心の野菜は素材の食感や風味を残して焼き上げている。焼き場には板木氏自身が立ち、お客が食べるペースを見ながら1本ずつ提供しているのも人気の要因だ。野菜巻き串は1本200~250円。一品料理はクイックに提供できるメニューにとどめており、フードメニューに占める串焼きの売上げ比率は7割程度。客単価4300円で、アルコールの売上げ比率は40%を確保している。
東京都台東区西浅草3-12-8 ℡03-6324-9438
営業時間/16時~翌0時(L.O.23時) 水曜定休
店舗規模/10.8坪26 席
明るい雰囲気の店内はカウンター席を主体にしたつくり。老舗飲食店が多数軒を連ねる中にあって、オープン早々に下町の地元客から受け入れられた。アルコールは芋、麦、米など10種類から選べる焼酎をベースにした酎ハイ500円が売り。日本酒も10銘柄以上をグラス500円~で揃えている。
都内で居酒屋「二代目うおたま よだれ家 本家」などを展開する㈲YDRが、同社の5店めとして2017年1月に東京・調布にオープンしたのが「極楽よだれ酒場 調布」。2フロアで構成し、1階を最大15名程度収容の立ち飲みスペース、2階を20席のテーブル席とした串焼き居酒屋だ。常時30品前後を揃える串焼きメニューの中で、売り物である野菜肉巻き串はそのボリュームがセールスポイント。たっぷりの野菜を巻いた「小ねぎ肉まき」や「レタス肉まき」、大ぶりのエリンギを巻いた「エリンギ肉まき」(いずれも1本200円)は、男性でも一口で頬張るのがやっとという大きさだ。その他、季節限定で芽キャベツやイチゴを巻いたものなどユニークな串焼きをラインアップ。野菜巻き以外では、スパゲティナポリタンや納豆を肉で巻いた串焼きを用意するなど、既成概念にとらわれない柔軟なメニュー開発も特筆される。気軽に利用できる1階立ち飲みスペースの人気が高く、串焼き3~4本と一品料理1品、ドリンク2~3杯というのが平均的なオーダーパターン。客単価は2500円で、月商350万円を売り上げている。
東京都調布市布田1-49-12 ℡042-444-6785
営業時間/17時~翌0時(日曜、祝日15時~) 月曜定休
店舗規模/18坪20 席+スタンディング15名収容
大ぶりの串焼きは電気式グリラーで焼成し、焼き時間は5~6分程度。店側のおまかせで提供する盛合せを用意していることもあり、ロスはほとんど出ないという。アルコールの売れ筋はハイボール500円~。1階は常連客で満席になることが多いが、2階のテーブル席の稼働率を高めることが目下の課題だ。
「野菜とフルーツ」をテーマに掲げ、“インスタ世代”の女性客を吸引して大ヒットを飛ばしているのが大阪・なんばの「やさい串巻き なるとや」だ。大阪市内を中心に「炭火焼き鳥 えんや」を6店展開する㈲エンヤフードサービスが2017年8月にオープン。17坪38席で月商1000万円を売り上げている。「えんや」では15年前の創業時から野菜肉巻き串を4品ほどラインアップしていたが、今回はそれに特化した業態開発を行なった。人気の「レタス」290円や「パクチー」280円、「奴ねぎ」200円などはカットした断面が美しい。初めに全品を盛りつけた桶をお客に見せることで選ぶ楽しさも演出。さらに味つけは塩やタレ、酢醤油、ゴマダレラー油などを用意し、食材に合う食べ方を提案している。ライスを串に巻き付けキーマカレーをトッピングした「キーマカレー串」280円などのユニークな串も提供。ドリンクはフルーツをふんだんに使った「ごろごろチューハイ」などのオリジナルチューハイ(600~750円)が看板メニューだ。「野菜とフルーツ」をコンセプトに、SNS映えを意識した商品開発が奏功し、女性客の比率は80%にものぼっている。
大阪府大阪市中央区難波千日前7-18 ℡06-6644-0069
営業時間/17時~翌1時 無休
店舗規模/17坪38席
15品を揃える野菜肉巻き串は、食材ごとに食べやすいポーションや野菜に合う豚スライス肉の厚みを研究。1年間の準備期間をかけて「えんや」で試験的に提供するなど試行錯誤を重ね、その成果が大ヒットにつながった。現在の客単価は3000円で、アルコールの売上げ比率は40%を確保している。
これら野菜肉巻き串のヒット事例が示しているのは、アイデア次第で多彩なバリエーションを展開できる串焼きの魅力であり、とくに見逃せないのが“高付加価値化”の可能性だ。串焼きは素材の持ち味がストレートに表現されるメニューであり、それだけに付加価値がつけづらいとされてきた。野菜肉巻き串はその点でもマーケットに新風を吹き込みつつある。女性客の圧倒的な支持を得ている「やさい串巻き なるとや」は、その格好のサンプル。定番商品を活用した新しい業態開発という観点からも、野菜肉巻き串は注目すべきトレンドといえよう。