外食業全般で「ドリンク」の重要性が高まってきている。居酒屋やバルなどではとくに、アルコールをいかに売るかが収益性確保のうえで重要になってきた。フードと比較して粗利益率が高い商材も多く、提供時のオペレーション負荷が低いという点も、あらゆるコストが上昇している現在では大きなメリットだ。しかし単にアルコールの品揃えを増やしたり販促に力を入れるだけでは、その強みを生かすことはできない。重要なのは、アルコールをしっかり売るための「業態設計」。今回は、そうした注目事例を紹介しよう。
角打ちをモデルにした立ち飲みスタイルで、日本酒のライトユーザーが気軽に立ち寄れる業態づくりで成功しているのが東京・月島の「つねまつ久蔵商店」だ。53種をラインアップする日本酒半合の値づけを380円、480円、580円の3ラインに集約。内訳は全国の地酒28種、店主の出身地である島根の地酒20種と鳥取の地酒5種で、島根と鳥取が集客目的、全国の地酒が利益確保のためのアイテムという位置づけだ。また常連客向けの商品としてメニュー表に掲載していない隠し酒20種を580円の均一価格で用意。この効果もあって来店客の6割をリピート客が占め、アルコールの売上げ比率は74%に達している。フードメニューは全48品で、そのうち7割を600円以下に設定。名物料理の「ふわ鳥皮煮込み」1本190円や「酒蔵おでん」600円など、スピーディに提供できるメニューが主力だ。ちょい飲み利用や二軒め利用も獲得し、スタンディングで27人を収容する9坪の店内は連日お客で溢れかえる繁盛ぶり。客単価2500円で月商470万円をマークしている。
東京都中央区月島1-6-12 ℡03-6204-9740
営業時間/17時~翌0時(土、日曜は15時~) 無休
店舗規模/9坪27人収容
メインの客席は中央に位置する一枚板のテーブル席で、お客はこれを囲むようにして利用する。お客の年齢層は30代後半~60代で、男女比率は5対5。日本酒のライトユーザーをコアターゲットにしつつ、日本酒好きのお客にもアピールするメニューミックスによって高いアルコール売上げ比率を確保。
ドイツのビール純粋令に則って国内で製造したオリジナルビールと独自輸入のドイツ産ビール。そこに「ドイツめし」を標榜するモダンスタイルのドイツ料理を組み合わせたビアダイニングが東京・神田の「SCHMALZ BEER DINING」だ。ビールはレギュラーサイズ400mlが650円均一と、クラフトビールとしては安価な設定。これにより日常使いのニーズを取り込み、客単価3000円、アルコールの売上げ比率は60%を確保する。フードメニューの売れ筋は「シュニッツェルパルミジャーナ」1280円。豚肉のカツレツにトマトソースとパルメザンチーズをかけた料理で、気軽な“ストリートフード”として本国ドイツでは新たな定番料理になっている。他にソーセージやジャーマンポテトといったドイツの定番料理も揃えるが、さらに「ガーリックチーズ枝豆」480円や「ジャーマンタルタル揚げ」880円など、居酒屋の定番料理をドイツスタイルにアレンジしたメニューも加えて業態の大衆化を図った。オープンは2017年1月で、40坪85席で月商2000万円を目標に据える。
東京都千代田区内神田3-18-3 ℡03-3527-1233
営業時間/17 時~23時30分(金曜~翌0時、土曜11時30分~23時、日祝11時30分~22時30分) 無休
店舗規模/40坪85席
経営母体のカイザーキッチン㈱では、2020年までに首都圏でビアダイニングの100店チェーンを確立することを目標に掲げている。そのためのコア戦略が「ドイツビールのマジョリティ化」。日常使いできる価格を打ち出すことで、主客層である20代後半~40代後半のオフィスワーカーのニーズを摑んだ。
大衆酒場然とした店ながら、女性客比率が5割を超え、7坪20席で月商250万円を売り上げるのが東京・中野の「大衆酒場 コグマヤ」。フードメニューは9カテゴリで53品を揃え、プライスポイントを100円、280円、350円に設定。品数のうち9割を380円に設定して値頃感を出している。ポテトサラダやハムカツなどの定番に加え、鮮魚のカルパッチョやクレソンサラダ、レバーパテなど女性好みの商品を取り入れ、客層の間口を広げているのが特徴だ。一方のアルコールは300~520円の価格レンジで9カテゴリ39品をラインアップ。オレンジの果汁と果肉を入れたオリジナルのハイボール「こぐまハイボール」380円など、ここでも女性客のニーズに合ったメニューを投入している。平均的な注文パターンはフード3品、ドリンク3杯で、アルコールの売上げ比率は55%をマーク。アルコールメニューの75%前後を単品原価率20%以下の商品とすることで、フードメニューを低価格に抑えながらトータル原価率を35%に着地させているのも特筆すべき点だ。
東京都中野区中野3-36-4 深野ビル2F ℡03-6304-8655
営業時間/17時~翌0時(L.O.23時) 無休
店舗規模/7坪20席
20席のカウンター席が連日2回転。主客層は20代~30代の女性と40代~50代の男性で、お客の平均滞席時間は3時間に達する。店内はコンクリート打ちっぱなしの壁面に提灯や木札の品書きがぶら下がり、まさしく大衆酒場の雰囲気。低価格に抑えながら女性客のニーズを捉えた品揃えが奏功した。
外食における商品は、組み合わせることでその魅力が増す。フードとアルコールも同様であり、組合せすなわちコーディネーションによってお互いの持ち味が生かされ、食事トータルの満足度が高まるのである。ポイントは、その満足度を高いレベルで維持しながらいかにアルコールの売上げ比率を高めるかにある。それには、アルコールの品揃えが店のコンセプトとしっかり連動していなければならない。今回紹介した事例に共通しているのは、まさにその点なのだ。