Restaurant MOTOÏ × 堀木 エリ子

No

16

「自分ではない誰かのために」
人を思う心こそが、ものづくりの原動力。

NEW PAIRING OF CHAMPAGNE・Restaurant MOTOÏ
京都府京都市

面識はあったが語り合うのは初めてのふたり。話は深く、心の内にまで及んだ。

町家、フレンチ、シャンパーニュ。複雑に絡み合う3つの要素。

和紙デザイナー・堀木エリ子さんが『テタンジェ』のトップキュベ「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン 2008」のペアリングを体験する「食べるシャンパン」。
今回の舞台は、京都の路地に暖簾を掲げる『Restaurant MOTOÏ』です。
築100年の町家をリノベートした重厚な空間で供される、前田 元シェフのモダンフレンチ。それは空間の品格から想像するよりも自由奔放で、ときにフレンチという枠にさえ収まりきらない独自のスタイル。2012年のオープンから1年を待たずしてミシュランの星を獲得した事実は、このスタイルが単に奇をてらうのではなく、確かな技術とロジックに裏付けられていることの証明かもしれません。
堀木さんの事務所からもほど近く、過去にも何度か訪れたことがあるというこのレストラン。前田シェフは「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン 2008」にどのような料理を合わせ、堀木さんはそこに何を見出すのか。
未知なるマリアージュが始まります。

窒息させて血をとどめるエトフェという技法で、濃厚な旨味を湛える七谷鴨(ななたにかも)が主役のひと皿。

  • フレンチのほか、10年に渡る中華料理の経験も持つ前田シェフ。その技法は随所に活かされる。

  • 温度を確かめるのは手。「熱いのですが、集中していると不思議と熱くないんです」と前田シェフ。

特別な時間を彩る、特別なレストラン。

「以前、友人にこの店で誕生日を祝ってもらったことがあります。その印象もありますが、私にとってここは特別な時に利用する、特別なお店です」。
中庭を臨むテーブルに着き、堀木さんはそう話しはじめました。そして口をつぐみ、しばし店内を見回します。
築100年超、かつて呉服商の邸宅だったというこの空間。庭木がもっとも美しく見えるよう一段下げられた床、重厚な天井を支えるように整然と並ぶ梁、いまや希少な大正ガラスを通し少し波打って見える木々。
京都を拠点に活躍する堀木さんにとって、この新旧が違和感なく調和する空間はきっと馴染み深いものなのでしょう。しばしの無言は決して居心地の悪いものではなく、むしろこの空間に浸っている時間だったのかもしれません。
やがて前田シェフの手で料理が運ばれてきました。
「京都・亀岡の七谷鴨です」という前田シェフの言葉通り、それは上質な鴨肉を余すところなく盛り込んだ一皿。胸肉はロースト、内臓はパテ、モモ肉はミンチにしてコンソメを取り聖護院大根に染み込ませています。添えられたクレソンは、シェフが早朝に清流の中から摘んできたもの。
このコンセプチュアルな料理は、果たしてどのように「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン 2008」と響き合うのでしょうか。

中華の技法で取ったコンソメなど、随所に中華料理の経験も持つ前田シェフらしさが光る。

  • 店の考え方を出さず、自由に楽しんでもらうことが前田シェフの信条。

  • 料理に潜ませた山椒や胡椒が「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン 2008」と響き合う。

食べる順序で味わいが変わるひと皿は、「まるで魔法」。

運ばれてきた鴨を口に運んだ堀木さんは、しばし咀嚼し、「おいしい。って当たり前ですけど、やっぱりその言葉が出てしまいますね」と笑います。それから「甘みがあり、臭みははく、鴨の旨味が凝縮されています。つまり、おいしいんです」と付け加えました。
次いで「大根はいわばソース代わりです」という前田シェフの説明を聞き、大根をひと口。
「上品でふくよかな“ソース”ですね。最初に山椒が香り、最後に胡椒の余韻が残る。鴨の旨味がいっそう引き立ちます」と称えました。
そして待ちわびたようにグラスに手を伸ばし、「本当にぴったり。料理の余韻をシャンパーニュが優しく包んでくれるような印象です」と堀木さん。さらに今度はパテを味わい、再びシャンパーニュをひと口。
「今度はシャンパーニュが口の中で弾けます。鴨、大根、パテ。食べる順番を変えるだけで味の感じ方が一変し、続くシャンパーニュの印象も違ってきます。一皿の料理とは思えない、まるで魔法です!」と驚きの表情を浮かべます。 前田シェフは我が意を得たりと微笑み、料理の種明かし。
「“コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン 2008”は、エレガントかつスパイシーという複雑な味わい。そのさまざまな要素を引き出せるよう、料理も皿の中で多様性を持たせました。クレソンは水温が低い今の時期は、ワサビのような辛味がありますので、これで口の中をリセットして多彩な味わい方をお楽しみ頂けます」と複雑な計算が潜んでいることを教えてくれました。

「フランス料理には型があるが、ここにはそれがない。それこそ前田シェフの本質」と堀木さん。

  • 「自分が行かないと嘘になる」と毎朝5時過ぎに市場に通う前田シェフ。

  • 料理と和紙。ジャンルは違うが、ものづくりに挑む姿勢は驚くほど共通していたふたり。

誰かを思う心が、思いがけない力を生む。

これまでに何度か堀木さんが店を訪れ、互いに面識はあったふたり。実はそれ以前にも、ふたりが交差したタイミングがありました。それは前田シェフがかつて働いた期間限定レストランでのこと。
「レストランとして使っていた空間に、堀木さんの作品が飾られていたんです。光の加減によって見え方が変わる和紙。こんな美しいものを見ながら仕事ができるなんて、と幸せに思っていたことを覚えています」そう振り返る前田シェフ。
「誰かに見てもらうこと、誰かを喜ばせること、それがものづくりの基本ですから、そのお言葉はとてもうれしいです。そして前田シェフもきっと同じなのだと思います。先日“餃子”を食べて確信しました」。
堀木さんが話す「餃子」とは前田シェフが手掛け、2020年11月にオープンしたばかりの新店、その名も『モトイギョーザ』のこと。
「はじめはフレンチの前田シェフが餃子と聞いて驚いたのですが、お話を聞いて納得しました。家族のために家で作っていた餃子が起点なんですね」。
「その通りです。この社会情勢のなかで何かできることはないか、と考えていたときに、前から娘のために作っていた餃子を思い出しました。いつも早朝から仕入れに出かけ、帰るのは深夜。もっと娘の笑顔が見たいと、毎晩、娘の好きな餃子を試作しました。ニンニクを使わず、好物のパクチーとエビを入れて、もちろん無添加で。それが形になったのが『モトイギョーザ』です」と前田シェフ。
誰かのためになら、もっとがんばれる。そんな堀木さんの思いは、目の前のグラスを満たすシャンパーニュにも及びます。
「シャンパーニュも同じですね。十字軍で遠征したエルサレムで兵士が口にしたブドウ酒。それがおいしくて、故郷の皆にも伝えたい、と苗木を持ち帰ったのがシャンパーニュのはじまりですから。自分のためではなく誰かのため。それが思わぬ力を生むのかもしれませんね」。

「京都でやる、イコール京都の文化を伝えていくこと。その部分は大切にしたい」と前田シェフは語った。

  • 空間設計にデザイナーは入れず、すべて前田シェフの思い描いた通りに設えたという。

  • フランス料理、和紙、シャンパーニュ、町家。どれも伝統を守り、今の時代に合わせて表現し、伝えていくもの。

なぜ?を考え続けることが次へのステップに。

偶然も必然も含め、幾度も互いの歩みが交差した前田シェフと堀木さん。同じ京都を拠点とし、そしてものづくりに向き合う姿勢にも多くの共通点がありました。
たとえば、今回堀木さんが手掛けた「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン 2008」のギフトパッケージは、熨斗のように箱を包む形。これは「紙で包むことにより物を浄化して人に差し上げる」という日本古来の文化を取り入れた表現です。
一方、前田シェフのコースに箸を使う料理が登場する際、箸はゲストの正面に横向きに置かれます。これも結界を意味する日本古来の作法。「なぜそうするのか、を常に考えます。他のレストランに行くときも、食材の組み合わせやソースを“なぜ”使っているのか、と考えます」という前田シェフの言葉に、堀木さんも深くうなずきます。
「例えば、居心地の悪い喫茶店があったとして、普通ならもう行かなければ良いだけのことですよね。でも私は友人と話しながら頭の片隅で、“なぜ居心地が悪いのか”を考えてしまうんです。そして“自分だったらこうしてみよう”というアイデアが生まれる。常に考え続けること、それが思いの深さなのでしょう」と堀木さん。
京都という特別な地を舞台にする理由。受け継がれる伝統の捉え方と、その上に成り立つ革新の意味。今の時代を反映し、未来につなげるものづくり。
深く深く掘り下げていく似た者同士のふたりの会話は、まるで自分自身に問いかけているようでもありました。

愛情、おもてなし、思いやり。ふたりの間で多くの言葉が語られたが、その本質はどれも「誰かを思う心」で共通していた。

鴨とテタンジェ。

鴨、大根、パテ。
食べる順番を変えるだけで、味の感じ方も、それに続く
「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン 2008」
の印象もガラッと変わる。
仕掛けはクレソン。
水温が低い今の時期はワサビのような辛味があり、
口の中がリセットされて多彩な味わいになるという。
一枚の皿で何度も喜ばせたいという
京都『Restaurant MOTOÏ』の
前田シェフの思いやりが生んだ一品だ。
コントドシャンパーニュに使われるシャルドネ種のぶどうも、
シャンパーニュ地方の領主であったティボー4世が
十字軍の遠征先で口にしたブドウ酒を
故郷の皆にも伝えたい、と
苗木を持ち帰ったのはじまり。
誰かのために。作り手のその気持ちは
食卓に幸福な魔法をかけるらしい。

Restaurant MOTOÏ

  • 住所

    京都府京都市中京区富小路二条下ル俵屋町186

  • 電話

    075-231-0709

  • Restaurant MOTOÏ HP

    https://kyoto-motoi.com/

堀木 エリ子

1962年京都生まれ。高校卒業後、4年間の銀行勤務を経て、京都の和紙関連会社に転職。これを機に和紙の世界へと足を踏み入れる。以後、「成田国際空港第一ターミナル」到着ロビーや「東京ミッドタウン」などのパブリックスペース、さらには、旧「そごう心斎橋本店」や「ザ・ペニンシュラ東京」など、デパートやホテルの建築空間に作品を展開。また、「カーネギーホール」(ニューヨーク)での「YO-YOMAチェロコンサート」舞台美術や、「ハノーバー国際博覧会」(ドイツ)に出展した和紙で制作された車「ランタンカー‘螢’」など、様々な分野においても和紙の新しい表現に取り組む。「日本建築美術工芸協会賞」、「インテリアプランニング国土交通大臣賞」、「日本現代藝術奨励賞」、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2003」、「女性起業家大賞」など、受賞歴も多数。近著に『和紙のある空間-堀木エリ子作品集』(エーアンドユー)がある。

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